──ある介護施設長の“ひとこと”から見える心の矛盾
最近、とある介護施設の施設長が投稿した言葉が、静かに注目を集めていました。
内容はおおよそ、次のようなものでした。
「何気なく言ったことなんて、だいたい忘れるもんだ」
自分は、誰かに何かを言われても引きずらないタイプだから、
いつまでも根に持たれても困る。
できれば水に流して、また普通に接してほしい。
一見すると、自立的でサッパリした姿勢にも感じられます。
しかし、心の動きを見つめる視点からすると、いくつもの“引っかかり”が浮かんできます。
「言った側は忘れている」の違和感
まず注目したいのが、冒頭の言葉。
「何気なく言ったことなんて、だいたい忘れるもんだ」
これは、多くの人が一度は経験したことのある感情ではないでしょうか。
たとえば、心ないひとことに傷ついた経験。
言った本人は気にも留めていないのに、自分の中ではずっと残ってしまう。
そんな体験に思い当たる人も少なくないはずです。
つまり、この言葉は「言われた側」の気持ちを映しているとも言えます。
にもかかわらず、投稿者は「自分は気にしない」「引きずらない」と語っています。
この食い違いが、少し気になるのです。
「根に持つ人は苦手」という拒絶感
さらに印象的なのが、「根に持たれても困る」「水に流してほしい」という言葉です。
これは、一見するとドライなだけの主張にも見えます。
しかし裏返せば、「感情に向き合うことのしんどさ」や「距離をとりたい気持ち」がにじんでいるようにも思えます。
たとえば、人間関係において、お互いの感情を丁寧に受け止めるには時間と労力が要ります。
それを避けたいと感じる背景には、過去に“感情のもつれ”で消耗した経験があるのかもしれません。
また、「自分は根に持たない」と語る人ほど、実はそうした記憶を“うまくしまい込んできた”だけという場合もあります。
「気にしてない人」ほど、実は気にしている?
この投稿を読んで感じたのは、「気にしてない」と強調するほど、
実は心に残っている可能性があるということです。
たとえば、本当に忘れていることなら、わざわざ書かなくても済むはずです。
わざわざ書くということは、「思い出させられる何かがあった」とも考えられます。
つまり、他者の“根に持つ態度”を批判することで、
自分自身の過去の記憶と距離をとろうとしているのかもしれません。
傷ついた記憶は、どこにしまわれているのか
人の心は、「もういいや」と頭で片付けたつもりでも、
感情の奥に“納得できていない部分”が残っていると、なかなかすっきりとは忘れられません。
たとえば、
・あの場で反論できなかった自分が悔しい
・なぜあんな言い方をされたのかが理解できない
・誰も自分をかばってくれなかった
こうした「置き去りの気持ち」があると、
その場の言葉よりも、感情の残像の方が強く残ってしまいます。
投稿ににじむ、言葉にできなかった“過去”
この施設長の言葉は、
「自分は気にしないタイプ」「普通に話してくれればいい」と繰り返します。
しかし、その言い方自体が、何かしら“自分に言い聞かせているような響き”もあります。
本当に気にしていない人は、そうした話題をわざわざ持ち出す必要はありません。
つまり、過去に「忘れたかったこと」や「やり過ごしたつらさ」が、
いまもどこかで引っかかっているのかもしれません。
最後に:気にしすぎる人も、悪ではない
「いつまでも気にするな」という言葉には、どこか正論めいた響きがあります。
しかし、本当に人間らしいのは、気にしてしまう方かもしれません。
たとえば、他人のひとことに傷つくのは、
その人に対して期待や信頼があった証でもあります。
だからこそ、軽く流されると、その分だけ深く残ってしまうのです。
「気にしすぎる人」にも、それだけの理由があります。
そして、「忘れられない自分」を責めるのではなく、
「あのとき大切だった感情」があったことに気づけたなら、
それはむしろ、優しさの証ではないでしょうか。
📌あとがき
人の心は、直線ではありません。
忘れようとしても思い出してしまうのが、感情というものです。
だからこそ、「気にしないで」と言われても、気にしてしまうことに罪悪感を抱かないでいい。
そこにある感情は、ちゃんとあったものです。
無理にしまい込まず、時には誰かと分かち合ってもいいのだと思います。
読んで「確かに!」「そうかもしれない!」と思った方はコメントでもなんでもいただけると嬉しいな。
著者プロフィール:
介護福祉士として6年半、介護に従事。その後、福島県で心理カウンセラーとして、介護に従事する方を中心にオンラインでメンタルケア、カウンセリングを行っている。また、介護に限らず、日常のあらゆる愚痴聞きを受けている。
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